もうブレない自分になる。自己肯定感を根底から育む、あなただけのパーソナル暗示療法
なぜ「私」は揺れるのか・・・嵐の中の小舟
まるで、嵐の中の小舟みたいだ、と思ったことはありませんか。
誰かの一言が、予期せぬ大波となって頭上から降り注ぐ。SNSで見た誰かのきらびやかな日常が、自分の足元を心許なくさせる引き潮となる。上司の些細な表情の変化という名の風に煽られ、オールを握る手はすっかり力を失ってしまう。
自分の航路は、確かにこの方角だったはずなのに。
必死でオールを漕いでいるつもりでも、気づけば同じ場所をぐるぐると回っているだけ。岸は見えず、空はどこまでも灰色で、自分という舟の存在さえも、この広大な海に溶けて消えてしまいそうだ。
「しっかりしなきゃ」 
「もっと自信を持たなくちゃ」

自分を鼓舞するはずの声は、冷たい風に混じって空しく響き、波音にかき消されていく。その声は、一体誰に向けたものだったのでしょう。
この記事は、そんな果てしない嵐の海で、たった一人で小さな舟を漕ぎ続けている「あなた」へ贈る、ささやかな物語です。
「高めなければ」という鎧。鏡に映る、知らない「わたし」
彼女の日常は、とても静かで、けれどいつも水面下で小さな渦を巻いているようでした。
会議で何かを言おうとしては、発言した後の空気、周りの人の視線、考えうる限りの反応を想像して、結局は言葉を飲み込んでしまう。友人の「いつも頑張っていて、すごいね!」という心からの称賛に、練習したかのように完璧な笑顔で応えながら、心の中では「本当の私は、怠惰で、弱くて、そんな人間じゃないのに…」と小さな声が呟いている。その声は、もちろん誰にも聞こえません。
夜、ひとり静かにベッドへ潜り込むと、スマートフォンの青い光の中に救いを求めます。「自己肯定感を高める方法」と打ち込む指先は、もうすっかり無意識の癖になっていました。画面には、たくさんの正しそうな言葉、輝かしい成功体験が並んでいる。それを一つひとつ、祈るように試してみるけれど、まるで誰かのために作られた、サイズの合わない美しい服を着ているような違和感だけが、心をきつく締め付けるのです。着飾れば着飾るほど、内側の本当の自分がみすぼらしく感じられて、息苦しくなるのでした。
ふと、思うのです。
「自己肯定感を高める」という言葉は、まるで「今のままのあなたでは不完全だ。だから何かを学び、何かを付け足さなければ価値がない」と、そう言われているように聞こえませんか?
私たちは、いつから自分以外の「誰か」の正解を探し、自分の心の声を二の次にするようになったのでしょう。洗面所の鏡に映る自分に、そっと問いかける。「ねぇ、本当のあなたは、どこにいるの?」と。鏡の中の瞳は、答えを知っているかのように、ただ静かに、深く揺れているだけでした。
「正しい答え」を探す森。自己肯定感の迷い子。
彼女は、自分の足で歩き始めました。道標のない道を、ただひたすらに。評判の良い本を読み、心を強くするというセミナーへ通い、自分を変えるための努力を、真面目に、誠実に重ねたのです。
けれど、知識が増えれば増えるほど、頭の中にたくさんのコンパスが置かれていきました。あるコンパスは「ありのままでいい」と北を指し、あるコンパスは「目標達成こそが自信になる」と南西を指す。どれが本当の自分へと続く方角なのか、無数の針が震えるばかりで、もう分からなくなってしまう。まるで、出口のない深い森に、たった一人で迷い込んだかのようでした。

木々の葉が風にざわめく音は「その道は間違いだ」と囁き、遠くで聞こえる鳥の声は「もっと努力が足りない」と告げている気がする。踏みしめる湿った落ち葉の感触さえも、自分の不確かさをあざ笑っているように感じられたのです。
疲れ果てて、苔むした大きな木の根に腰を下ろした時、ふと、全ての音が止んだ気がしました。
探していたのは、「どうすれば変われるか」という方法(How to)という名の、外の世界の地図ではなかったのだ、と。本当に、本当に知りたかったのは、たった一つの、内なる問いの答えでした。
「私は、本当は、どうしたいの?」
その自分自身の心の声は、あまりにも小さく、か細くて。森の深いざわめきの中に、今にも溶けて消えてしまいそうでした。
「答えはあなたの中に」。静かな部屋と、内なる声
森の奥深く、陽の光さえ届かないような場所に、彼女は蔦の絡まる小さな扉を見つけました。そっと押してみると、軋む音もなく、まるで待っていたかのように静かに開きます。
そこは、外の嵐や森のざわめきが遠い世界の出来事のように感じられる、静寂に満ちた小さな部屋でした。
部屋には、一人の「聞き手」が座っています。その人は、地図も、コンパスも、正しそうな答えも何一つ持っていません。ただ、そこに静かに在り、温かい眼差しで、彼女が言葉を紡ぐのを待っている。
ここでは、うまく話す必要も、正しい答えを探す必要もないのだと、彼女は理屈ではなく、全身で悟りました。ジャッジする声も、急かす空気もない。ただ、時間が凪のように穏やかに流れ、埃をかぶった心のひだ一つひとつが、ゆっくりと開かれていくのを感じました。
聞き手は、ただ隣に座り、一緒に心の奥深くへと続く螺旋階段を、一歩、また一歩と、彼女の呼吸に合わせてゆっくり降りていくだけ。その階段の先にあるのは、忘れていた子供の頃の宝物や、傷つかないようにと自分でしまい込んでしまった本当の願いが眠る、あなただけの「秘密の書庫」です。
誰にも汚されていない、埃をかぶったままの、あなただけの物語の最初のページ。それを、恐る恐る、けれど慈しむように、そっと一緒にめくる、ただそれだけの時間。

「高める」のでも「変える」のでもありませんでした。 ただ、元々そこにあった、あなたという、世界でただ一つの美しい物語を「思い出す」旅が、静かに始まる場所でした。
「高める」のではない。「ブレない自分」とは、物語を思い出すこと。
彼女は、まだ書庫の扉を開けてはいません。ただ、その重厚な扉の前に立ち、深く、静かに呼吸をしています。吸う息は自分の中心へと届き、吐く息とともに長年の緊張が解けていくようです。
もう、嵐におびえる小舟に乗る必要はないのかもしれない。 自分の内側に、どんな嵐にも決して揺らぐことのない、穏やかでどこまでも広大な、静かな海が広がっていることに、気づき始めたからです。
ブレていたのは、自分自身ではありませんでした。 ただ、自分の中心に還る道を、あまりに多くの情報と喧騒の中で、ほんの少しだけ、忘れてしまっていただけだったのです。その気づきは、涙が出るほどの安堵感となって、彼女の心をじんわりと温めました。
答えは、あなたの外にはありません。これまでも、そして、これからも。 あらゆる本の中にも、賢者の言葉の中にもなく、ただ、あなたの静かな心の中にだけ、それは存在しています。
あなたの物語の主人公は、他の誰でもない、あなた自身なのですから。
非日常のひとときを、あなたの心に














